今から数年前のことです。ペスタを卒園した仲間に悲しい出来事が起こりました。それはあまりにも、突然で、悲しくて、辛くて、痛くて、暗くて・・・。今尚、その出来事に、思い、悩み、考え、心のど真ん中が時にチクチク針のように突かれたり、時に大きな鉈でバッサリ割られたりしている大人が今も沢山います。サトシもその中の一人です。
その出来事から数ヶ月後、ペスタの園庭に一本の木が植えられました。ザクロの横に植えられたサクランボの木。ペスタで育った仲間の事をいつまでも忘れないように彼女の好きだったサクランボの木がペスタに植えられました。
初めは小さな木でしたが、倒れないように支えをつけたり、根を踏まれないように囲いをしたり、耳かきで受粉したり、鳥に沢山食べられないようにネットをしたりと、仲間の木に思いを寄せる沢山の人達の『愛』という支えの中で、サクランボの木はスクスクと大きくなり、今年も沢山のサクランボがペスタの園庭に届きました。
初めにスミレの仲間が、ザクロの木や梯子を使い、サクランボを採り、小さな仲間達に配ってくれました。タンポポの仲間は採れたサクランボを盆にのせて、小さな仲間に「サクランボいりませんかー」とさくらんぼ屋さんになって配ってくれました。
チューリップの仲間は風で落ちたサクランボを洗って、「たべるー」と食べました。
ひよこの仲間は「ちょーだい、ちょーだい」と年上の仲間に催促し、貰って食べました。
仲間が届くところは食べ尽くしたので、もっと高いところのサクランボをサトシが採っているとき、鉄棒の下でちょっとしたもめ事が起こりました。どちらが先に鉄棒にぶら下がるかのもめ事です。「あたしが」「あたしが」の言い合いの末、二人とも涙が出てきます。んー、どうしたもんかと木の上で考えていると、サクランボ屋さんが二人に近づいてきて、「どうぞ」とサクランボを渡します。二人は涙を止めてサクランボを食べると、次の遊びに向かっていきます。凄いなぁと思っていると、下から一人の仲間が「ねぇ、ねぇ」とサトシに話しかけます。
なに?と聞くとサクランボを採りたいとの事、「でも、サクランボ嫌いやなかった」と彼に聞くと、彼は「うん、でも○○ちゃんにねあげたいんだ」そうかぁ、と彼が届きそうな所を探し、梯子を使って採って貰う。彼は自分のも、と二粒採って持って行く。好きな子となら食べれるんやな、また凄いと思いながら、ちょっと休憩と木から離れる。離れたところから見ていると、まだ日本の言葉が話しづらい仲間が、懸命にサクランボを採ろうとしている。
木の支えの部分を使い、背伸びして、手を大きく伸ばし彼はサクランボを採ろうとしている。もう少しの所で採れない彼を見ていると、仲間がやってきて、彼と何やら話している。サクランボの方を指さし懸命に話す彼と頷く仲間。数分後、彼はサクランボを見事に採る、そしてその懸命に採った一粒を仲間に渡した。 凄いの三連発にやられたサトシでした。
今年のサクランボを仲間達と向き合って、サトシはこの木がペスタに植えられた時のもう一つの願いを思い出しました。それは、楽しい時、嬉しい時は当たり前だけど、仲間がしんどい時、悲しい時に、この木の下でホッコリ出来ますように。この木が持つ優しくて、暖かい力が仲間に届きますように。そんな言葉だったと記憶しています。
ペスタで育った彼女がそうだったように、サクランボの木もペスタで仲間と育っていきます。
このサクランボ木の名前は【はなちゃんの木】と言います。